東京地方裁判所 昭和46年(ワ)602号 判決
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〔判決理由〕二 そこで、まず、被告物件が本件登録実用新案の技術的範囲に属するものであるかどうかについて判断する。
実用新案出願公告昭和四〇―一五三七号実用新案公報(本件実用新案公報)によれば、本件考案は、
(1) 山形を成す硬質合成樹脂製のハンガー主体は、その頂辺を形成する左右片3、4が垂直な板状で、これに続く裾部5、6の上縁を徐々に前側に彎曲延出させて、その終端に逆U字状部7、8を形成していること、
(2) 裾部5、6および逆U字状部7、8を前記左右片3、4に対し、前方に緩やかに彎曲させていること、
(3) 逆U字状部7、8に垂設した連繋片9、10間に上面を弧状とし、前後面をくぼませた横桟11を架設していること、
(4) ハンガー主体の頂点部に基端の膨大部2を埋設して回動自在としたフック1を挿着したこと、
をその構成要件とするものであると認められる。
しかして、右構成要件(2)の、「裾部5、6および逆U字状部7、8を左右片3、4に対し、前方に緩やかに彎曲させていること」というのは、単に裾部5、6および逆U字状部7、8を全体として、左右片3、4に対し前方に緩やかに彎曲させているにとどまらず、逆U字状の終端が、左右片3、4に対して、同片の下端部位においてほぼく字状になるように、さらに前方に突き出した位置にあることを意味するものというべきである。このことは、本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」の項に、「横桟11は逆U字状部7、8の下方間に位置しハンガー主体aの頂部より前方にあるのでこれに掛けたズボン等がハンガー主体に掛けた洋服等悪影響をおよぼすことがない。」とある点、および横桟11は、逆U字状部7、8の先端に垂設された連繁片9、10の下端間に架設されているとある点、ならびに公報添付図面第3図に徴して明らかである。
ところで、本件考案の右構成と、被告物件を表示する図面および説明、および被告物件である検甲第一号証によれば、被告物件は、山形を成す硬質合成樹脂製のハンガーであつて、その主体の頂辺を形成する左右片ロ、ハをほぼ垂直な板状とするとともに、この左右片ロ、ハに続く裾部ニ、ホの上縁を徐々に前側に彎曲して、その終端に逆U字状部ヘ、トを形成している点において本件考案の前記(1)の構造と同一であるが、
(a) 裾部ニ、ホおよび逆U字状部ヘ、トは、前記左右片ロ、ハが形成する頂辺部に対し前方に緩やかに彎曲した形状をなしてはいるが、逆U字状部の終端が左右片ロ、ハに対してほぼ同一垂線上にあり、左右片ロ、ハよりも前方にあるのではない点
(b) 連繋部チ、リ間に架設した横桟ヌが上面を弧状とし、前面はくぼんでいるが、後面は上縁より下縁が前方に位置する傾斜面となつている点
(c) フック・ルは、ハンガー主体への挿着部分に環状溝ヲが刻設してある点
(d) 逆U字状部ヘ、トに「垂設した連繋片」を有しないという点
で、本件考案の構造とは異なることを認めることができる。
実用新案は、一般的にいつて、その構成要件全体の有機的結合中に技術的思想を表現するものであり、考案における各構成部分は、統一的に結合され、全体との相関関係において一個の考案を構成するものであるから、権利の技術的範囲を解釈するに当つては、各構成要件部分の特徴、作用効果を当該考案全体の構成との相関関係において、これを総合的に考察し、解釈しなければならないことは、原告主張のとおりである。
しかしながら、ハンガーは、衣類特に洋服類を吊すという目的自体からその構造においておのずから限定を受けるものであつて、ハンガーの本体は必然的に人体の肩部に相似したものになつてくるということは、実公昭二六―一一三三五号、実公昭三四―一七三三五号各実用新案公報の記載によつて明らかである。
原告は、ハンガー全体の形状を人体の肩部に相似せしめるよう順次前傾せしめる構成は、少くとも一体的成型による硬質合成樹脂製ハンガーには従来なかつたと主張するが、ハンガー全体の形状を人体の肩部に相似せしめるよう順次前傾せしめる構成のものが公知であつたことは前掲実公昭三四―一七三三五号実用新案公報の記載、登録第二一一七二九号意匠公報の記載によつてもこれを認めることができるし、木製ないし合板製のものでそのようなものが存在していたことは原告自身もこれを認めるところである。しかして、本件考案の要旨が一体的成型による硬質合成樹脂製のものにおいて、前記のようなハンガー全体の形状を人体の肩部に相似せしめるよう順次前傾せしめる構成のものであることに尽きるものであるとしえないことは、本件実用新案請求の範囲の記載から明瞭である。
そうすると、本件実用新案の技術的範囲は、前認定の(1)ないし(4)に掲記した構造を有するハンガーに限られ、被告物件は前記(a)ないし(d)の点において本件考案にかかるハンガーと異なつた構造を有しており、本件実用新案の権利範囲に属しないものというべきである。
原告は、前記(b)ないし(d)の相違点について、次のように主張する。すなわち、本件実用新案登録請求の範囲の記載中には「垂設した連繋片」の表現があるが、「垂設」という用語に拘泥することは適切でなく、本件考案においては連繋片の形状、大きさに限定はなく、かつまた本件考案においても被告物件においても、連繋片は同様に主体の逆U字状部下端と横桟との間に一体をなしており、さらに被告物件の連繋部も、これがあることによつて、逆U字状部と横桟の結合する内側面に鋭角を埋めた空隙をつくつて、「ズボン等の掛け外し作業に支障を与えたりすることがない」という本件考案のもつ作用効果を有しているし、横桟はズボン等を二つ折りにして掛けるものであるという目的の点で、また上面を弧状にし折目、しわなどを防止すること、ハンガー主体の強度を増大するという作用効果の点でも両者同一であるし、また、フックの点でも両者は技術的目的を同じくし、置換可能である、と。
しかしながら、原告の右主張は、実用新案法第五条第四項、第二六条、特許法第七〇条の規定にかんがみこれを採りえない。すなわち、原告の右主張は、本件実用新案登録請求の範囲に記載されてある前記本件考案の構成要件(3)および(4)をまつたく無意味なものにしてしまうからである。のみならず、仮りに原告の右主張を是認しうるとしても、被告物件と本件考案との相違点は右(b)ないし(d)に尽きるものではなく、(a)の点の相違もあるから、被告物件を全体としてみるとき、その技術は本件考案の技術と均等であるといいえないことは明らかである。
以上の理由により、被告物件は、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべきである。
三 つぎに、被告物件が原告の本件意匠権を侵害するものであるかどうかについて考える。
本件意匠を表示していることについて当事者間に争いのない本件意匠の写真によれば、本件意匠は、ほぼ二等辺三角形の形状をした枠体の頂面に欠円形フックの垂下部を挿着し、前記枠体の高さは底辺部の水平部分の長さの二分の一にほぼ等しく、枠体の左右斜辺板の合流頂点部は上側辺が丸形山状に膨出し、下側辺が逆に弧状にくぼみ、やや前かがみ状態の板状をなし、この板状をなす合流頂点部に続く前記左右斜辺板は、前側を開口させた弧状をなすとともに、その上縁に連続させて徐々に前側に彎曲延出させ、その延出度を左右斜辺板の裾部において最大とし、かつ、これら左右斜辺板は、その頂点部より裾部側を全体として前方に緩かに彎曲させ、さらに、枠体の底辺部の水平部分と前記左右斜辺板の裾部とは、右裾部から垂直に近い状態で垂下しその後緩かな弧状をなして底辺部の水平部分に続く丸棒をねじつたかの如き形状の連繋片をもつており、底辺部は枠体の頂点部よりも前面にあるものであると認められる。
一方、被告意匠を表示している別紙物件目録二添付の写真によれば、被告意匠は、ほぼ二等辺三角形の形状をした枠体の頂面に欠円形のフックの垂下部を挿着し、前記枠体の高さは底辺部の水平部分の長さの二分の一よりもやや高く、枠体の左右斜辺板の合流頂点部は上側辺が丸形山状に膨出し、下側辺が逆に弧状にくぼみ、やや前かがみ状態の板状をなし、この板状をなす合流頂点部に続く前記左右斜辺板は、前側を開口させた弧状をなすとともに、その上縁を前記頂点部の上縁に連続させて徐々に前側に彎曲延出させ、その延出度を左右斜辺板の裾部において最大とし、その左右斜辺板はその頂点部より裾部に至る部分において背面は前方に緩かに彎曲しているが前面は頂点部から多少屈曲はしているもののほぼ垂直に近い状態で続き、底辺部は枠体の頂点部とほぼ同一の垂線上にあり、さらに枠体の底辺部の水平部分と前記左右斜辺板の裾部とは、前記底辺部の水平部分の上方から前記左右斜辺板の裾部にかけてほぼ直角形をした連繋部によつて連繋されているものと認められる。
以上のとおりであるとすれば、原告主張のように、本件意匠にかかるハンガーと被告意匠のハンガーとは、フックの挿着態様、二等辺三角形状の縦横の比、枠体を構成する左右斜辺板合流頂点部の形状、斜辺板自体の延出状態、底辺部の上方部分と左右斜辺板の裾部とが練繋部においてなす角度がほぼ直角である点等において相似した点があるとはいえ、両者はその連繋部の形状において相違するし、また、本件意匠にかかるハンガーにあつては、底辺部は枠体の頂点部よりも前面にあるのに対し、被告意匠にかかるハンガーにあつては底辺部は枠体の頂点部とほぼ同一の垂線上にある点、さらに、両者は頂点部から裾部に至る彎曲の度合について相違し、これを全体的に観察した場合に、両者は視覚的印象を異にし、したがつて、被告意匠は本件意匠に類似しないものといわざるをえない。
以上の理由により、被告意匠は、本件登録意匠の範囲に属しないものというべきである。
四 以上説明のとおり、被告物件が原告の本件実用新案権および意匠権を侵害することを理由とする原告の本訴請求は、その理由がないからこれを失当として棄却する。
(荒木秀一 高林克己 野澤明)